院長の気まぐれコラム

思いついた時に、役に立つかなぁ〜と思える話題を…

土佐日記  (作者:紀貫之)
男もすなる日記といふものを女もしてみむとてするなり。
(現代語訳:男も書くという日記というものを、
女の私もしてみようと思って、書くのである。)
高校生の時、古文の授業で習った記憶を呼び戻してみてください。
こんな感じで、男性が女性をかたって、『みよし日記』を
ノブコが書いていきます…

1人目は頑張って経膣分娩を!

麻酔科から産婦人科に転科入局した際にお世話になった当時の主任教授に「なるべく1人目は、下からのお産になるよう頑張って下さい…」と言われた。その頃、藤田保健衛生大病院産婦人科は県内の4大学病院において、積極的に硬膜外麻酔を用いた無痛分娩を導入していて、産痛を軽減しながらお産をサポートする魅力的なところであった。
確かに…必要な帝王切開においての出産は仕方のない事だが、不必要に切られている事例も実際は…残念だが多い。
どうしても1人目は、赤ちゃんの通る“道”が出来てない事から時間がかかりやすい。本人以上に、ご主人やその他ご家族もまだかまだかと待てない気持ちが強くなる。医療者だって同じだ。
「帝王切開して早く赤ちゃんに会いましょう!」
まるで魔法の言葉の様に聞こえてしまう…そして同意する…
でも、手術をして長い月日が経ってもお腹の中では癒着による様々な障害が起こってしまう事があり…苦しんでいる方もいるだろう。
下腹部痛などの慢性的愁訴や腸管の蠕動(ぜんどう)運動の障害、不妊症、膀胱の機能障害、次に手術を行う時、癒着により手術操作が行いにくくなる。もちろん、癒着防止剤なども使って十分注意しているのだが…
麻酔科・産婦人科医として、やはり初めてのお産を迎える方こそ、積極的に無痛分娩を提供すべき!痛みがとれれば…赤ちゃんが元気でさえいてくれたら…ゆっくり産道がいい状態に変わってくるまで待てるから…

当院では、産婦さんのご協力もあって、何とか手術による出産が回避できており、お陰様で5%未満を維持している。もちろん、妊娠中の体重管理や安産のために出来る事すべてのご協力があってこそだが…ノブコ

貴重な経験から思う事…

私が医師となり、経験の浅い麻酔科医としてO市民病院救急救命センターで働いていた頃、出産後三日経過しても中等量の出血が止まらない…という患者…『たみー』さんという方が入室してきました。
私は、その患者さんを搬送してきた開業医を、大学病院にいた時から知っていましたが、実はあまり好感の持てる人(医師)ではありませんでした。
『たみー』さんの状態は“DIC”という、膣壁から少量の出血が三日間も持続したために凝固因子を浪費してしまい、腎不全も併発してしまった…決して楽観できる容態ではありませんでした。
結果は…
7〜8か月頑張ったけれども、お亡くなりになりました…

私自身も搬送してきた開業医と同類の“産婦人科開業医の息子”として、責務を感じて頑張りました…が、力不足でした。
治療に行き詰まり、当時の麻酔科部長に相談しに行くと助言の最後に
「麻酔科医は、呼吸、循環のプロ!手術の麻酔ができるだけなんてのは『麻酔屋』だ!本当の麻酔科医になれ!」
と、いつも言われました。
出血のコントロールもできない…その頃の実力の無さに失望し、また何よりも『たみー』さんに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。
それ以降、私はプロの麻酔科医を目指し研鑽に励みました。

『たみー』さんが比較的状態が安定し元気な時、挿管(口の中に管を入れた状態)され会話ができないので筆談をしましたが、その時書かれた
『もう子供に会うのはいやです…つらいです。』
に絶句し、スタッフ皆で泣いた事を今でも鮮明に覚えています…

以上の辛い経験から、絶対母体を出血ごときでは死なせないぞ!…と…ノブコは誓ったのでした。  合掌  

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